2006/9/10

丹沢:大山三峰山(闇より這い出る恐怖)

メンバー:会員2、会員外4(男性3、女性3)


その日は残暑という名のむしむしとした不快指数の高い何処となく重い空気に包まれていた。
全国的に悪天候に覆われてはいたが唯一関東地方のみ晴れ間が望まれ初秋の快適なハイキングを期待していた我々をあのような名伏難き惨劇が襲う事を誰が予想できたであろうか。前兆は確かにあった。煤ヶ谷と上煤ヶ谷を勘違いしてバスを乗り過ごし本来のスタート地点へ15分ほど戻らされて到着した林道の入り口に“ここでヒルを落とさないで”という看板と透明の容器に入った白い粉(塩?)が置いてある。
本当の恐怖とは無知者がほんの少しの現状を認識する事からはじまるとすれば無謀なる挑戦者と化した我々が5分後にその深遠の一部に触れた時がまさにこの世ならぬ狂気の入り口であったのだ。最初はたった一匹であった。確かにその時は物珍しさにはしゃいでいた。しかし既に足元の底知れぬ土くれの中で沈み潜む者達は、未だ無知である獲物を待ち受けていた。私はその場所へ足を踏み入れた瞬間を忘れる事はとても出来ない。そのもの達はいたるところでうねうねと触手を伸ばしつつこちらの正気を失わせるかのような邪悪な波動を放ちのたうちまわっている。
恐怖は足元から這い寄り、ある種の邪悪な荘厳さすら湛えているかの様な動きで衣服のあらゆる隙間を探り当て食い破り、脚に腕に腹にその牙を突きたてる。そう、人間の生き血を吸う為にだ。哀れなる獲物達は体中のいたるところを鮮血で染め、この場を訪れたことに対する後悔と現状を何とか打開しようという思いの中で、とにかく足を止めずに稜線に向けて進むことに専念した。互いに監視し合い、見つけては掴みとって叩き潰す。永遠と続くかの様な狩猟と殺戮を繰り返す中でいつしか山頂を越え不動尻の林道を経由して広沢寺温泉の七沢荘(日帰り入浴¥1,000)にたどり着いたのは16:20ごろであった。私には今回の山の印象はない、あるのは“二度とこの時期にこの山には来ることは無い”という思いだけである。しかし奴らは確実に行動範囲を広げつつある。そう、最早我々が安心できる場所は何処にもないのだ、例え街中といえども・・・
(H・P・Lovecraftの小説風に書いてみました)